chronic life

I can (not) have relations.

紅楼夢の殺人/芦辺拓/文藝春秋本格ミステリ・マスターズ

傑作。素晴らしい。云うこと無し。
最初は私も、馴染みの薄い『紅楼夢』と云う原典への距離感と、先ず頁を開いて現れた、膨大な数の人物紹介と家系図の複雑さから、正直楽しめるかどうか心配していたのですが、何のことは無い。読み始めればそんな考えが唯の先入観だったと知れます。文章は、平易であり乍ら巧妙。展開も巧く、微塵も飽きさせることは無い。そして、あの終局――。涙が出るかと想った。
悪いことは云わない。手に取ろうかどうか迷っている人は、騙されたと想って先ずはその頁を開いて下さい。又、序盤の数十頁で読みあぐねている人は、取り敢えず事件が起こる迄読みましょう。そして、名前やそれぞれの登場人物の設定なんかは、余り気にすることは無いのです。後は最後迄、一気に読み上げるのみです。その先に待ち受けている驚愕の真相は、ミステリーを愛する者であればある程に、感嘆の嵐を呼ぶことでしょう。この物語は、ミステリ−がミステリーであるが為に、書かれなければならないものだったのです。
作者と読者が共に愛を捧げる、豊饒なるミステリーへの供物。その美酒を味わわずして、どうしたものか。「アンチ・探偵小説」とは、善く云ったもので。