chronic life

I can (not) have relations.

東京タワー オカンとボクと、時々、オトン/リリー・フランキー/扶桑社

一度でいいから、俺もオカンの料理が食べてみたかった……。この世界のあらゆるものの中で、「親子の愛情」と云うものに一番懐疑的である僕でさえ、そう想ったのだ。いや、懐疑的だからこそ、これだけ感動し、号泣してしまったのかも知れないが。世の中の親子は、こんなに深い絆で結ばれているのか。それが、親子なのか――? 僕には、こんな豊饒な親子の物語を紡げるような記憶も想いもない。だからこそ、余計に哀しい。
これだけ話題になって売れていて(祝!100万部)、殆ど悪い評判を聞かないと云うことは、相当面白いか、相当醒めてしまうかのどちらかだろうと踏んでいたのだが、そんな斜に構えた姿勢は、直ぐに正されてしまった。いや、そんな不遜な気持ちで読んではいけないと、本能的に感じ取ったのかも知れない。小説としては、(大層偉そうだが)幾つか云いたいことがない訳でもない。しかし、この本には一つも文句はない。終盤の100頁ほどを別格とすれば、やはり大学を出てから数年の、借金と引越しに追われている辺りが最も好きだ。こういう状況や、これくらいの距離感が、僕には一番共感し易い。だから、一人の男の上京物語として、青春小説としても、この本はとても優れていると想う。「優れている」と云う言葉が違うなら、ただ単純に「面白い」でもいい。この本は、面白い。そして、とても読み易い。

東京タワー ~オカンとボクと、時々、オトン~

東京タワー ~オカンとボクと、時々、オトン~