chronic life

I can (not) have relations.

プラスティック・ソウル/阿部和重/講談社

阿部和重対談集』を読んで以来、是非読んでみたいと想っていた作品で、『批評空間』での連載終了から六年もの間単行本化されず、「失敗作」とか「切断線」とか色々な言葉が飛び交っていたので、それなりに構えて読んだのですが、個人的にはとても面白かったです。視点の交替に関しても、殆ど違和感を覚えることはなく、寧ろその語りの変化を存分に楽しんだ、と云う気すらしています。なんて云うか、ジャズのビバップみたいな感じで。
アシダイチロウに憧れる。いや、羨ましいと云った方が正確かも知れない。それは、作中の人物としてのアシダイチロウに対する気持ちであると同時に、こんな稀有で面白い人物を主人公に据えて小説を書いた、作者である阿部和重に対して、より強く感じていることかも知れない。もし、世に「キャラクター・シェアリング制度」なんてものがあったとしたら、僕は真っ先にアシダイチロウを何とかしたい。まぁ、無断で拝借すると云う手もないではないけれど。
それにしても、読んでいる最中に、こんなに作中のあれやこれやよりも、それを実際に書いている作家のことの方が気になる小説と云うのも珍しいなぁ、と想った。それは、僕自身の読み方が邪道だからなのかも知れないけれど、とにかく阿部さんが一体どんなことを想い、考え、この小説を認めていたのか、そういうことが気になってしょうがなかったのだ。そして、少なくとも僕にとっては、そういう風に想える作品と云うのはその媒体に拘わらず、大抵とても好きな作品なのだ。勿論、この『プラスティック・ソウル』もその例外ではない。
オマケと云ってはなんですが、巻末付録の「『プラスティック・ソウル』リサイクル」も面白かったので、福永信氏の作品も是非読んでみたいと想いました。

プラスティック・ソウル

プラスティック・ソウル