chronic life

地下室の屋根裏部屋で

箱男/安部公房/新潮文庫

先達て、樋口直哉の『さよなら アメリカ』を読んだ後にその感想を見て回ったところ、本書との類似性を指摘しているものが想いの外多かったのですが、どうもそれに違和感があったので、約十年振りに再読してみました。前半はちょっと読みあぐねてしまったんですが、中盤を過ぎてメタ的要素が顕在化してきた辺りからはぐいぐいと強く惹き込まれ、そのまま最後まで面白く読み終えることが出来ました。まぁ、何度読んでもよく判らないことは山のように残っているんですが。
で、懸案の『さよなら アメリカ』との類似性なんですが、これはやっぱり全然別物じゃないかなぁ、と。勿論、「箱」と「袋」と云う、元々の着想と云うか、アイディアの源流としては当然あると想いますが、それ以外は殊更取り上げるほど似ているとは感じませんでした。まぁ、「贋物」*1とか「彼女」の存在についても、被ってるっちゃあ被ってるんですが、そこまで云い出すと、「似てる」「似てない」の話はキリがなくなってしまうと想うんですよねぇ。とは云え、今回の再読で、忘れていた共通点に気が付くことも出来ました。それは、二作とも「書く」と云うことについて非常に自覚的であると云う点でして、まぁ、その辺りが実に僕好みな訳ですが……。そういう意味では、確かに幾つかテクニック的に踏襲されている部分はあるかも知れません。あ、もしかしたらそういうところについて、類似性が指摘されていたのかも。気付くの、遅っ。しかし、読んでいる最中や読み終えた後の心境と云うか気持ちは全く異なるので、別物だと強く主張したいような気もします。結局、僕は似てると云いたいのか似てないと云いたいのか、自分でもよく判らなくなってきてしまったのですが、それはそれで『箱男』らしいような気もするので、敢えてはぐらかすように終わることにします。あーあ。

箱男 (新潮文庫)

箱男 (新潮文庫)

*1:「入れ替わり」と云ってもいい