でも……と夏希は思う。弱いままじゃ駄目なの? 弱い人間は強くならなきゃいけないの? 反論したい気持ちを夏希は懸命に抑えた。(p.191)
いきなり内容と全く関係のない話で恐縮なんですが、本書のタイトルを想い浮かべたり口に出したりする際に、必ずと云っていいほど、スピッツの「夏の魔物」と云う曲のサビが頭の中で流れるんですよねぇ。しかもオリジナルの方ではなく、『一期一会』に収録されている小島麻由美の唄っている奴が。まぁ、理由はとっても単純なことなんですけどね。
で、ここから漸く中身の話なんですが、確かに巧いしいい小説だとは想いました。しかし僕には、とても薄くて目には見えないけれど、確実に存在している膜――或いは壁のようなものを、読みながら感じずにはいられませんでした。それはとりわけラストに顕著で、「終章」を読んでいる間、僕の心中に渦巻いていた感情を、最も適切且つ判り易い言葉で表現しようとすると、正直「気持ち悪い」になるだろうと想います。敢えてここで「美しさ」と云う言葉を使いたいんですが、本書のラストを包んでいるような類の美しさは、何だか僕を異様な気分にさせてしまうのです。それ故、僕にはこの小説を面白いと云うことが、書くことが、そんな風に感じることが出来ない。僕は、自ら「美しさ」と呼んだものを拒絶したいのだと想う。こんな「美しさ」は「気持ち悪い」。今の僕には、そんな幼くて貧弱な感想しか抱くことが出来ませんでした。
- 作者: 北國浩二
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2006/10/24
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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