小説にはちゃんとしたストーリーがあって、事件が起こって、愛する誰かが死んだりして、その喪失感が重要なテーマになる……というような、そういう“決まり”を無視した小説を書いているのが保坂和志なのだ。(p.32)
本書に収録されているのはほぼ凡て、『風の旅人』と云う隔月刊の雑誌と月一で更新されている「Web草思」に掲載されたもので、小説とエッセイなどの違いが非常に曖昧と云っても過言ではない保坂にしては珍しく、殆どはっきりと「エッセイ」と云い切っても先ず間違いない文章ばかりである。どうにもややこしい云い回しのようにも感じられるが、保坂の文章を纏めて読んだ後は大抵こんな雰囲気の文章になってしまうので、そういう意味ではそれほど違和感を覚えることはない。冒頭に引用したのは、保坂自身が自分の小説について実に的確に纏めている一文で、これを読んでピンと来ないようなら、保坂の小説を幾ら読んでもあまり面白さを感じることが出来ないのではないだろうか?とさえ想ってしまったのだが、流石にそれは云い過ぎかも知れない。まぁ、そんなことはさておき。内容に関しては、自分との共振度の高さにちょっとびっくりと云うか、これまで読んだ保坂のエッセイの中でも、こんなにスッと自分の中に入ってきたものはそうそうない、と云うような文章が沢山あって、もう本当に有難うございます、としか云いようがありません。いやぁね、もうここまで来ると、客観的なコメントなんて全然出てきませんよ。俺には最高だった、としか。
- 作者: 保坂和志
- 出版社/メーカー: 草思社
- 発売日: 2006/04/21
- メディア: 単行本
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