chronic life

地下室の屋根裏部屋で

シンセミア(下)/阿部和重/朝日新聞社

読了。面白い。凄く面白い。素晴らしく面白い。滅茶苦茶面白い。しかしながら、僕はこの本の面白さを巧く伝えることが出来そうにない。それが、それだけが酷く残念でならない。もし僕が、一言だけ伝えることが出来るなら、迷わず「いいから読め」と云うだろう。
本当に多くの登場人物達が、神町と云う舞台の上で縦横無尽に飛び回り、どこか本流とも傍流とも判らぬまま、読者はその怒涛の流れに押し流されてしまう。殆ど主人公不在*1で進んでいく物語ではあるが、しかしそこにはしっかりと一本の太い柱が立っていて、それは勿論「神町」と云う土地そのものなのである。これは誰の物語でもなく、神町神町による神町のための物語なのだ。だから、一見神町とは無関係と想われていたある人物でさえ、最終的にはそこに帰結してゆくのだ。血の呪縛ならぬ、地の呪縛。
僕はこれ程までに一つの町に拘って、町の過去と現在と未来を描き切った小説を他に知らない。それを「神町フォークロア」と云う一言で括ってしまって良いものなのか、僕にはどうも判断がつかない。取り敢えず「グランド・フィナーレ」持って来いよ、と(笑)。

シンセミア(下)

シンセミア(下)

*1:出て来ないと云う意味ではなく誰か判らない