chronic life

地下室の屋根裏部屋で

中上健次「灰色のコカコーラ」(『中上健次全集 1』所収)

「十九歳のおまえは他人に純粋にまじりっけなしに自分はこういうものだと言うことができるだろう。主張することができるな。ところが、二十五、二十六にもなると、風化してきたぼろぼろ岩のように崩れてきてある日すっかり硬いダイヤモンドのようだったものが砂になってしまっていることに気づくんだ。後に残っているのは十ぱひとからげのどこの映画館に行っても上映している通俗の安ものの感傷しかないんだ」(p.364)

本当は、全集の1巻だけでも全部読むつもりだったのですが、ちょっと他の予定が立て込んできたので、取り敢えず某氏の某作*1のタイトルの元となった「灰色のコカコーラ」だけ読みました。主人公のバックグラウンドが、先日読んだ『枯木灘』の秋幸と結構被っていて(年の離れた兄の自殺の話とか)、恐らく作者自身の実体験がかなり影響しているんだろうなぁ、と想いました。それとは別に、時代の空気みたいなものとしては、宮崎あおい主演の映画『初恋』とかの雰囲気に近いものを感じました。「時代」と云う一言で片付けたくはないのですが、なかなか計り知れない部分も多いな、と云うことも痛感させられました。

中上健次全集〈1〉

中上健次全集〈1〉

*1:殆ど伏せる意味はないですが