chronic life

I can (not) have relations.

山田詠美『風味絶佳』文藝春秋

「大人が初恋やり直すって、いやらしくて最高だろ?」(p.148)

今や、映画『シュガー&スパイス〜風味絶佳』の原作としての方が有名であるような気もしますが、僕が元々この本に興味を持ったのは、一昨年末に発売された『この恋愛小説がすごい!2006年版』で、本作が第二位にランクインしていたからでした。それから一年以上の時を経て、漸く本書を手に取ることが出来た訳ですが、その間に表題作は映画化され、厭と云うほどTVでCMを観させられてしまっていたので、正直ちょっと途方に暮れかけていたところもあって、最初の二篇くらいはぶっちゃけ「合わないなぁ」と想いながら読んでいたんですが、件の表題作「風味絶佳」辺りからは徐々にノッてきて、その後は結構スッと読み終えることが出来ました。しかし、素直に面白かったと云えるのは「海の庭」と「春眠」くらいかなぁ。「風味絶佳」も悪くはなかったんですが、これはもう作品としてどうこうと云うよりは、「どうやってこの短篇を二時間の映画にしたんだろう?」と云う好奇心の方が先に立ってしまい、小説単体として冷静な判断が下せているとは想えません。だって、柳楽優弥沢尻エリカでしょ? 一体どうなってるんだよ、映画は。いつどのタイミングで、OASISとか熱唱する訳よ? と云う訳で、この本について僕はあまりいい読者とは云い難かったと自分でも想いますが、色んな意味で映画は観てみたくなったので、そういう観点ではアリっちゃあアリだったかな、と。後はまぁ、ちょっと自分の中でハードルが上がり過ぎちゃってたかなぁ、と云う想いもないではないです。書けば書くほど、云い訳がましくなってしまいますが。

風味絶佳

風味絶佳

隠してこっそり書きますが、あんまりこっそり感が出ないのが、はてなのいいところでも悪いところでもありますよね。さて、本題です。僕は、この本に収録されている「アトリエ」と云う作品のような状態になるのがとても厭で、だから恋愛と云うものから遠ざかろうとしているのだと、かなり切実に感じました。いや、だって、普通に考えてこの関係性はヤバいでしょう。勿論、小説としてもそれ相応のラストを迎える訳ですが、それにしたって……やっぱり厭だ。「生理的に受け付けない」と云う言葉は、こういう時に使うのかも知れません。いやはや、ここまで人に嫌悪感を覚えさせると云うのも相当な巧さだとは想いますが。