chronic life

I can (not) have relations.

草枕/夏目漱石/新潮文庫

「全くです。画工だから、小説なんか初から仕舞まで読む必要はないんです。けれども、どこを読んでも面白いのです。あなたと話をするのも面白い。ここへ逗留しているうちは毎日話をしたい位です。何ならあなたに惚れ込んでもいい。そうなると猶面白い。然しいくら惚れてもあなたと夫婦になる必要はないんです。惚れて夫婦になる必要があるうちは、小説を初から仕舞まで読む必要があるんです」(p.114-115)

幻想小説みたいでしたね、何か。或いは、津原泰水の『蘆屋家の崩壊』に収められている一篇のような読み心地と云うか。とにかく、不思議な感触の小説でした。今、僕などが使っているような意味での「リアリティ」と云うのとは、また別の感覚の現実感と云うか、世界の捉え方をしているように感じられました。なので、読んでいる最中に何度か「え、これってどういうこと?」と、描かれている内容が判らなくなって立ち止まってしまうようなこともあったのですが、何故だかその都度妙な魅力と説得力で、小説の中の世界に引き戻されてしまうのでした。そんなこんなで、非人情で出世間的な生き方に憧れてしまう、今日この頃です。まぁ、絶対無理ですけどね。

草枕 (新潮文庫)

草枕 (新潮文庫)