chronic life

I can (not) have relations.

愛についてのデッサン――佐古啓介の旅/野呂邦暢/みすず書房

小説を読んでいて、想わず溜め息を漏らしてしまうことがある。また、否応なしに本を閉じずにはいられない衝動に駆られる時と云うのもある。それはいずれもネガティヴな意味ではなく、あまりにもその小説が素晴らし過ぎて、そうせざるを得ないのだ。このまま読み続けることは出来ない、読み続けたら大変なことになってしまう。そんな風に心がストッパーを掛け、自らに冷却期間を求めるのだ。本書、『愛についてのデッサン』を読んでいる間に、そういうことが幾度もあった。特に、表題作「愛についてのデッサン」と「若い沙漠」を続けて読んだ後は、次に進むまで流石に暫く間が要った。これほどまでに、「本を読むことの幸福」を味わわせてくれる小説に、人はそうそう巡り合うことはない。今はただ、その幸福感とこの小説の豊饒さだけに包まれていたい。たとえそれが、いずれは去ってしまう旅先での想い出のようなものであったとしても。
何はともあれ、僕は本書を手元に置いておかなくてはならない。それだけは絶対にそうである。誰が何と云おうと、そのことだけは決して譲れない。

愛についてのデッサン――佐古啓介の旅 (大人の本棚)

愛についてのデッサン――佐古啓介の旅 (大人の本棚)