世の中には無数の手順と不測の事態にまみれて二十代で会社を興す人間だっているのに、四十歳の自分はお釣りを小銭入れにしまえないとは、いつの間にこんなに差が開いたのだろう。(「現実圧」p.13)
本篇が始まって僅か六頁目のこの一文を読んで、僕はこの本を選んで正解だった、と確信した。シンクロしてちゃあ駄目なのかも知れないけれど、どうしても「他人事とは想えない感」がずっと拭えなかったのだ。寧ろ、読む進めれば進めるほど、その想いは深くなっていった。特に「優先順位」の腕時計の傷の件や、「リセットマン」のリセットが困難な事柄に対する怖さ、それに「俺についてこい」の二つのカップやきそばの話なんかは、頷くどころの騒ぎではなかった。それは、僕のことだったからだ。そして、極め付けは「『この世』の大穴」。これはちょっと、これだけの分量で一体、どこまで「僕の核心」に迫られてしまうんだ……と、正直恐れをなした。けど、多分、本当はちがうんだ。
- 作者: 穂村弘
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2005/06/01
- メディア: 単行本
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