chronic life

地下室の屋根裏部屋で

夜をゆく飛行機/角田光代/中央公論新社

 だれかを好ましく思う、ということと、だれかに恋をする、ということは、冗談みたいにかけ離れている。(p.189)

何故だか判らないけれど、読み始めて三頁目(p.5)で、既に涙ぐんでいた。これまで、普通の人に比べれば少しくらいは多い数の本(小説)を読んできたつもりだけれど、そんなことは生まれて初めてだった。寿子と松本健を足して二で割ると、丁度僕みたいな人間になるんじゃないだろうか、と読んでいる最中に想ったりもしたけれど、当たり前のように人間は足したり割ったり出来ないし、それに二人は現実に存在している訳じゃない。多分、僕には一生逢うことも出来ないだろう。そんな当然のことが、何故だか無性に哀しかった。せめて里々子とは、一度くらい逢って話をしてみたいのに。恐らく、いやきっと、里々子は僕と同学年で、次の春が来る前に25歳になる筈なのだ。そんな、今の里々子と話がしてみたい。本当は、自分に一番似ているのは怜二なんじゃないだろうかと感じてしまったのだけれど、それだと何だかとてもおこがましいような気がして、妙に云い出し難かった。だって……。けど、本当の本当は、俺って瀬谷みたいな大人になるのかも、ってまだ高校生みたいな気持ちで想ったりもした。何だか、自分と誰かを重ねてばっかりだ。それに、これだけ何度も「本当」と書いている癖に、本当の本当の本当に自分が一番グッと来たところは、不思議と書いてしまいたくない。そこは、僕だけの特別な場所だと想いたいから。とても、とても素晴らしかったです。

追記

最後に、一つだけ無茶を云わせてもらえるならば、この作品を原作として、脚本・向田邦子、演出・久世光彦で、是非連ドラをやって欲しかったなぁ、と。絶対に、絶対に無理なことだとは判っているのだけれど――。

夜をゆく飛行機

夜をゆく飛行機