chronic life

地下室の屋根裏部屋で

ゆれる/西川美和/ポプラ社

監督自らの手による映画『ゆれる』のノベライズ、などと云った通り一遍な説明ではとても云い尽くせないほど、この小説『ゆれる』もまた、非常に繊細ながら幾度となく揺れている。或いは、映画以上に。今、僕がこんなところで書いてもしょうがないのは重々承知しているのだけれど、西川美和はこの作品で、いや遅くとも三年以内には、小説家として何らかの栄誉を手にするような気がする。例えばそれは、三島賞であったり。
大筋は映画とほぼ同じなのだけれど、各章毎に語り手が代わって、それぞれの視点から物事を、出来事を、そして自らの心の内と気持ちの流れを語ってゆく――。ただそれだけのことで、ある一方を向いている筈だった映画は、それに拘わった様々な人達の多重な想いを介することによって、全く別の顔を見せることもある。それが正に「ゆれる」と云うことで、物語も揺れれば、登場人物の人間性だって揺れていってしまう。勿論、小説プロパーの方ではないので、テクニック的な巧さで云えば、まだまだ発展途上な部分もあるかも知れないが、そんなことはさて置いても、是非多くの人に読んでいただきたい、良作だと想いました。特に、まだ映画を観ていない人の感想が知りたいですね。

ゆれる

ゆれる