自分ではファンだと想っていて、インタビューの載っている雑誌なんかは結構買って読んだりしていたのですが、実はちゃんと本になった小説を読むのは一年半振り。しかもまだこれが三冊目ってんだから、よくもまぁ自分でも「ファン」だなんて想えていたものです。反省。さて、この小説の主な舞台となる「大路家」の家がある辺りは、自分も約二年ほど実際に住んでいたことがあるので、結構想い入れがあると云うか、普通に懐かしかったです。茗荷谷の駅を出て坂を下って、拓殖大学の門を過ぎると上り坂になって……なんてのは、正に僕の通勤コースでした。それ故逆に、田辺のポジションが結構胸に突き刺さってきたりして。悪い奴じゃないんだけどなぁ。嗚呼、同情(同類相憐れむ、かも知れない)。
三冊しか読んでないのにこんなこと云っちゃ拙いでしょうけど、実に吉田修一らしい作品だったと想います。本当はそれぞれ、全然別な方を向いちゃってる感じがとてもいい。しかも、それでも何だか巧く回ってるっぽいのが更にいい。その上、本当にサラッと、ドラマティックな展開とか起こってますからね、案外。いや、こういう纏めみたいなの極端に苦手なんだった、俺。しかし、僕が『パレード』や『パーク・ライフ』を読んで感動していた心のパートは、すっかり保坂和志にお株を奪われてしまったのかも知れません。勿論、吉田修一も追っ掛け続けますけどね。うーん、妙にフワフワ、モワモワしている。この読後感は、何だか春の浮遊感に似ているような気がする。今この時季に読んで、正解だったのかも知れない。
- 作者: 吉田修一
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2006/01/21
- メディア: 単行本
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