chronic life

地下室の屋根裏部屋で

誰のための綾織/飛鳥部勝則/原書房

もしかしたら飛鳥部勝則は、この一作を発表することによって、作家生命が絶たれてしまっても構わない、くらいの意気込みで、この小説を書き上げたのかも知れない。少なくとも、僕にはそのように想われた。それほどの熱意――いや、業とでも呼ぶしかないようなものが、この作品からは感じられたのだ。現時点での、飛鳥部勝則の最高傑作だと想う。
想えば飛鳥部勝則と云う作家は、これまでも常にミステリーの――もっと云えば小説の限界に挑むかの如き作品ばかりを書いてきたように想う。それはつまり、タブーへの挑戦である。様々な趣向の小説が数多溢れ返り、最早何でもアリで小説にタブーなど何もないかのようなこの時代に、彼は敢えてタブーを探り出し、それを真っ向から扱おうと格闘する。そんな飛鳥部スピリットが、これまででも最も際立っているのが、本作なのではないだろうか。確かに、この作品についてあまり良くない話も耳には入っているが、そういう問題を取り沙汰している人達は、本当にちゃんとこの小説を読んだのだろうか? 答えは、しっかりテキストの中にあるではないか。勿論、それが良かったのか悪かったのか、僕に判断することは出来ない。寧ろ、それを批難する声が上がることも理解出来るし、飛鳥部が開いたその扉は、本当に触れてはならないものだったのかも知れない。しかし、作家生命を賭けてまで、一体誰がこんなことをするだろうか? ただの茶番や苦肉の策とは到底想えない。何せ相手は、あの飛鳥部勝則なのだ。それに彼は出来得る限り、小説の中にその答えを込めたように想う。僕にはそう読めたし、そう読んだ。だからこそ、今後どんな展開が待っていようとも、少なくとも僕は忘れない。飛鳥部勝則と云う作家がいたことを。そして『誰のための綾織』と云う、どこまでも挑戦的な小説が確かに存在していたことを。
それにしても、本当にこのタイトルはいいなぁ。響きとか字面がいいだけじゃなくて、意味や内容の面でも、実に素晴らしい。そして何より、この作品にピッタリだ。

誰のための綾織 (ミステリー・リーグ)

誰のための綾織 (ミステリー・リーグ)