chronic life

I can (not) have relations.

ヴェロニカの鍵/飛鳥部勝則/文藝春秋

読了。これまで読んだ飛鳥部作品の中で、小説としては一番好きです。勿論、ミステリーとしても面白かったんですが、今回は純粋に、一小説として実に好みの作品でした。
以前から、飛鳥部作品はどことなく野島伸司作品と相通じる部分があるんじゃないかと想っていたんですが、この作品はそれが顕著で、特に『リップスティック』とかなりの類似点が認められるなぁ、と。
ストーリーそのものは、殆ど似てないと想うんですが、作品全体の醸し出す雰囲気と云うか、随所に見られる細かい描写や思想が、何とも云えず『リップスティック』と近いような気がしてなりません。例を挙げれば、主人公が今は殆ど筆を折ってしまっている(元)画家で一人の女性をずっと想い続けているとか、一方画家として成功している(していた)主人公とダブルのような存在がいるとか、何かと詩的で観念的な会話を交わす青年との遣り取りとか、ヴィンセントやテオについての言及とか……今、想い付いただけでも結構ありますね。他にももっと、言葉では巧く表せない作品そのものの持つ雰囲気のようなものが、非常にダブる部分があって、野島作品のファンの方は、是非飛鳥部作品に手を伸ばしてみていただきたいな、と想う訳です*1
ミステリー的にも、恐らくこの密室のネタは先例とかがあるんでしょうけど、この作家がこの登場人物でこの雰囲気でやるからこそ、リアリティがあると云うか、納得出来るネタなんだと想います。実際、読んでいて密室の真相に想い至った瞬間は、少なからず衝撃を受け、その後、脳が正常に機能し始めて漸く、想い出したかのように「あー、これは凄い」と言葉になった次第です。
最後に余談と云うか、オマケ。飛鳥部作品は大抵装幀も素晴らしいんですが、今回はその中でも特に格好良いのではないかと。小説としても一番好きですが、今のところ装幀も一番好きですね。

ヴェロニカの鍵

ヴェロニカの鍵

*1:逆もまた真なり