chronic life

I can (not) have relations.

イデアの洞窟/ホセ・カルロス・ソモサ/文藝春秋

読了。えー、正直読むのにかなり苦労した、難儀な小説でありました。ただでさえ翻訳物は苦手なのに、その上……内容に触れてしまうので、多くは語れませんが。とにかく凄い変梃りんな小説でした。そういう意味ではとっても好みな訳ですが。
一言で云うとメタ。先ず、ある古代ギリシアを舞台にした本書と同題のミステリーがあって、「わたし」はそれを翻訳すると同時に、訳注を付けている。その内「わたし」の身の廻りでも色々と不審な出来事が起こり出して、最初は本文に対してツッコミ的な立場だった訳注が、途中からどんどん暴走し始める。作中作である『イデアの洞窟』に取り憑かれてしまった「翻訳者」は、一体どうなってしまうのか? これがメインの設定と展開。この時点で惹かれないなかったら、読まなくていいかも(笑)。
それ以外にも、作中で語られる思想や作中作の解決など、読むべきポイントは沢山あります。特に作中作の結末は、日本のある有名作品二作*1を想起させて、実はこれってアンチ・ミステリーでもあったのか!と、驚かされたものです。
個人的に残念だったのは、こういう趣向のメタ・ミステリーの場合、最終的な着地点があやふやでよく判らない方が、僕としては好みなんですが、これはキッチリオチがついてます。テキストを信用すれば、どういうことだったのか凡てはっきりしてしまう。勿論、その方がいいと云う意見も判るし、実際すっきりはする。けど、僕がこういう小説に求めているのは、また別なもののような気がする。終わったのに終わっていない、真空にポンと放り出されてしまったようなラストを、僕は希求しているのです。
しかし、頑張って読んだ甲斐はありました。そう簡単にお薦めは出来ませんが。

イデアの洞窟

イデアの洞窟

*1:ネタバレになるのでタイトルは云えませんが