chronic life

I can (not) have relations.

追憶のかけら/貫井徳郎/実業之日本社

読了。「またかよ」と想われるでしょうが、口癖のように嘯きますよ。傑作! これは素晴らしい。貫井徳郎の最高傑作と云っても過言ではない。年間ベスト級です。今年は本当に、序盤から素晴らしい本にばかり当たって怖い位です。以下は余談と云うか、雑談だと想って下さい。ネタバレはしてないつもりですが、書き終わったら何だか恥ずかしかったので、読まれる方は反転させて下さい。

旧仮名遣いの作中作が想ったよりも読み易いと云うのは、既に散々指摘されたこととは想いますが、それでも敢えて云わせて下さい。読み易い。寧ろ、現在パートより読み易かったかも知れない。いや、これ本当マジで*1。そしてこれは、作者の大変な苦労の賜物なのではないかと想う訳です。作中作をそれらしく見せるためには、パッと見読み難そうな印象を与えると云うことはある種の必然な訳であって、それでも実際に読む際には、スルスルと楽に読み進めることが出来ると云うのは、実は非常に危ういバランスの上に成り立っていることな訳で、その一点だけを取り出しても、この作品は評価に値すると想うのです。一文、長っ。
その上、展開が面白い。過去・現在共に、視点人物はある事柄を追い求めて奔走する訳ですが、その流れが非常に巧いし、待ち受ける二重三重のどんでん返しもまた素晴らしい。最後に明かされる黒幕の正体とその動機には、何とも云えない深く後ろ暗い悪意のようなものの存在に驚くと同時に、戦慄さえ覚えてしまいました。こんなことが、こんな人達が本当に存在するのかと、ある種の非現実感さえ漂わせてしまいます。それは勿論、小説として素晴らしいと云う意味なのですが。
またこの小説は、主人公*2の駄目さ加減を憂う小説としても非常に優れていると想います。しかしその駄目っぷりが良いのです。その駄目っぷりにシンクロしてしまうのです。それ故に、ラストに登場するフォントが変わっているところ*3を読んだ時には、想わず目頭が熱くなってしまいました。本当に、素晴らしいものを読ませていただきました。推薦していただいた政宗さんには、今度逢った時に是非お礼を云おうと想います。

追憶のかけら

追憶のかけら

*1:そこ、一段組の所為とか云わない

*2:作中作・現在共

*3:敢えてこういう書き方をします