chronic life

地下室の屋根裏部屋で

月に吠えろ! 萩原朔太郎の事件簿/鯨統一郎

是は以前にオフ会で戴いたもの。ミステリーの短篇集は読み易いので、暑くてへばって眠くてウトウトで、色々あって読書欲が減退している時でも、程好く処方してくれます。あいや、処方って何だ?
探偵役は、大正時代の大詩人、萩原朔太郎。そしてワトソン役(記述者)は室生犀星。正直、二人とも余り馴染みは無くて、名前位は知っていますって程度なので、それが引っ掛かりになることは、良くも悪くもなかった感じ。
しかし是、つい今日読んだ『CANDY』と較べて、何だか全然別人のようですねぇ、鯨。ミステリーとしてもまともだし、文章は普通に巧い。主人公である朔太郎の奇人変人振りも常識の範囲内だし、何より小説として真っ当だ(笑)。『CANDY』の作者と云うよりも、『邪馬台国はどこですか?』の作者と云った方がいい気がする。いや、実際そうなんだけども。
それぞれの事件の謎と解決についても、短篇らしく小気味いいもので、読んでいてダレると云うことが無い。多少見慣れたトリックのものもあるにはあったけれど、そこはそれ。鯨なりの語り口の巧妙さで、見事に読ませる。読んで損無し。値段分・時間分・頁分は、充分に楽しめるのではないかと。唯出来れば、萩原朔太郎の諸作や、当時の時世にもう少し詳しければ、もっと楽しめたかも知れないと想うと、少し残念。
次は、『あすなろの詩』でも読もうかな……と、どんどんN月から遠ざかっていく私――。