久し振りの笠井潔、読了。『ヴァンパイヤー戦争』の文庫版が買えないので、こっちで代替罪滅ぼし。しかも、モー娘。の文化祭の行き帰りで読むと云う、とっても場違いな感じ。まぁ、読み終わったのはついさっきだけど。
お馴染み、文藝春秋の本格ミステリ・マスターズの一冊で、二作の中篇集。しかも初出は両方五年以上も前の「別冊文藝春秋」。出すの遅いよ、本当(笑)。まぁでも、後ろにあるエッセイ等々を読んでみると、実はもう一作書いて、三篇にしようとしていたみたいなので、仕方ないか。
二作とも私立探偵飛鳥井もので、私立探偵小説であり乍ら、同時に本格でもあると云う代物。以下、それぞれの感想。
先ず「追跡の魔」。一言で云うとストーカーもの。最初に書かれた時期(1997年春)を考えると、なかなかにタイムリーと云うか、先物買いな感じ。丁度その頃、ドラマ業界もストーカーものが流行ってたっけ……あ、関係ないな。
で、ストーキング被害に関する依頼から始まって、徐々に話は混乱を来たしてゆき、何時しか人が死んでいる。とか書くと、一寸非常識だけど、僕の印象はそんな感じ。漸く事件の輪郭が掴めて来たと想ってからの、怒涛の勢いに興奮気味。キーワードは、鴉と黒マント。
次に「痩身の魔」。こちらも一応、社会的なテーマとしては、摂食障害と日系外国人の就労問題ってことになるのかな? 正直、その辺は結構どうでも良くて、飛鳥井の調査に因って徐々に明かされていく事実に因って、余計混迷を極めていく真相。それを又更に、直観ではなく調査と奇抜ではない推論で固めていく姿勢に、同調する。年齢や外国での生活経験等から、どうしても飛鳥井の姿に笠井潔本人がダブってしまうのだが、彼の私立探偵と云う職務に対する、忠実であり且つ飽く迄ドライな感覚が、読んでいてとても肌触りが良かった。
でこちらは、ある女性の失踪を起点として、彼女を取り巻く様々は人達が手を変え品を変え登場するにだが、何時迄経っても失踪の原因には辿り着けなかったのだが……って処から先は読んで下さい。うわっ、説明下手過ぎ(爆)。
又、飛鳥井と二篇共通のキャラクターである鷺沼晶子との掛け合いも、ベタベタもギスギスもせず、ぎこちない処が無くてとても読み易かった。ワトソン役でも恋の相手と云う訳でもないのだが、不思議な連帯感と信頼関係が窺える。
確かに、形式は真っ当な私立探偵小説で、しかも精神は本格。特にラストに掛けての畳み掛けは、二作とも賞賛に値する。より好みなのは「痩身の魔」かな。家庭環境が複雑であればある程、僕は登場人物に感情移入してしまうのです(笑)。後、今気付いたけど、双方に共通してるのが、面差しの似た女と云うことでしょう。是は大事。
矢吹駆シリーズのような、衒学的な楽しみ(苦しみ?)は無いので、そういう部分で笠井潔を敬遠している人にはお薦め。巻末の、エッセイ・インタヴュー・笠井潔論も良し。出来れば、手元に置いておきたい本なのだが……如何せん借り物。ハードカヴァーは高いよ。
アレ? 一体何処から全体の感想に移ったんだろう? 何処迄が「痩身の魔」の感想なんだろう? いや、もうそんなことはどうでもいいや。そんなことより、何か真面目に長めに感想書いてしまった、不覚だ――。