輝き豊かな宝石を愛でるように、爛漫と咲き誇った幾輪かの花々を見詰めるように、ゆっくりゆっくり読み進めていたのですが、遂に読み終えてしまいました。
素晴らしい。面白い。傑作。珠玉の短篇集……。一体どんな言葉を並べよう? その凡ては真実であり又、言葉だけの仮初とも云える。
竹本健治とは、本当に不思議な作家である。勿論、氏と同じように、様々なジャンルを横断して、多くの傑作を残している作家は、他にも幾人か想い浮かぶ。しかし、彼の作品は他のどの作家の作品達とも似ていない。唯一無二の特異点――。
ミステリーでもSFでもホラーでも、はたまた純文学的作品であっても、その本流とは一線を隔し、余剰や違和感や歪みが出る。そしてそれが、彼自身の持ち味であり、作品そのものの魅力ともなる。それ故に、様々なジャンルの作品が一同に会している本書のような短篇集でも、凡ては恰も“竹本健治”と云う一つのジャンルに収束していくかの如く、不思議と同じ雰囲気を漂わせている。
それは、解説の千街晶之氏の言葉であれば“孤独”であり、僕が想う処の“虚ろさ”である。もっと巧く当て嵌まる言葉があるような気もするが、そんなことより読めばいいと想う(笑)。
一番のお気に入りは、ラストを飾っている「銀の砂時計が止まるまで」。是は、僕が生涯に読んだ短篇の中でも、ベスト5には入ろうかと云う傑作。こういう話に僕は弱いのです(笑)。その他、「トリック芸者」シリーズの「メニエル氏病」や「白の果ての扉」、「空白のかたち」等もお薦め。と云うか、一冊全部お薦めです。
短篇集乍ら、今の処今年のベスト候補。図書館に返さなくてはいけないのが、非常に忍びない今日この頃です――。