chronic life

I can (not) have relations.

「ヘリオテロリズム」Vol.1/感想

はてなの方で随時公開していた、そらけいさん 主宰の同人誌「ヘリオテロリズム」Vol.1 の感想が全部終わったので、改めてこちらに纏めました。多少加筆訂正した部分もありますが、基本的には初読時に書いたものと変わっていない筈ですので。お互い、何卒お手柔らかに……。


★ドラウナーズ/いづる
ファウスト賞っぽい、と想うのは僕の読み方が悪いのだろうか? しかし、僕の想う「ファウスト賞」ってのは、こんな感じなんです。ファウスト賞って、ミステリーとかミステリーじゃないとか云う地平から、一番自由だと想ってるし。
僕はきっと、自分の心の中に「じぇいく」を飼っているんだと想う。実際、今の僕の生活って殆ど、終盤でじゃいくが語っている姿そのものだし、余りに従順過ぎて恐い位。だから、僕にはきっとしのぶのことは判らない。僕としのぶが見ている世界は、恐らく全く違うものだから。それでもいいと想うのは、面白いと想うのは、この小説の持っている空気と云うか、匂いのようなものに惹かれるからかも知れない。それと、「先生」と云うかキャラクターが出て来たのは、少しだけドキッとした。「あ、被った!」って。「もえかん(仮)」の時の未成年(笑)君の気持ち。

ヒット・パレード98-89/西東ノブ
年代的には、作者と少しズレていると想うのですが、如何せんメインがドラマ主題歌なもので、殆ど凡ての曲が瞬時に想起出来ます。なので、固有名詞で戸惑うことは殆ど無かった。勿論、本文中にさり気なく歌詞とかが引用されているのを、凡て拾い切れているかと云うと、自信ないですがね。
「批評的」と云う読みが果たして合っているのかどうかは別にして、そうした視点が含まれていると云うことは、疑いようの無い事実ではないだろうか。流れる車と流れる曲、そして流れる過去の記憶。凡ては繋がっているもの。音楽は過去の記憶を呼び起こす最上の装置であるとか云った在り来たりなことを云いたくはないけれど、それはやっぱりそうなのだ。しかし残念なのは、僕が余りにも道のことを知らないので、その方面の説明が全く訳が判らなかったと云うことだ。こういうのが判ると、もっと色々と面白い仕掛けが判ったかも知れないのに。残念。

★メタ探偵の憂鬱/秋山真琴
今度逢った時、じっくり話を訊きたくなった。「此処の是ってこういうこと?」とか「じゃあ、こっちの是はどういうこと?」とか、訊ねたいことが色々ある。やりたいことは判るような気もするけれど、僕ならきっと無理だと想って投げてしまうと想う。それを敢えて強引にでもやってしまったのは、若さの証拠と云うか、青春故の情熱か。出来れば、もう一度力を付けて挑んで欲しい。と云うか、やるでしょ? 取り敢えず、僕も『白書』が欲しいです。

★スライド/根子
是は好きですね、はい。先ず、この「ヘリオテロリズム」Vol.1に収録されている九作品の中で、文章が一番好きです。肌に合うと云うか、読んでいて気持ちが良いです。そういうのって、特に長いものを読む時には非常に重要になると想うんですよ。だから、次は是非もっと長いものを(笑)。
内容に関しても、結構自分好みの題材と書きっぷりで、最後の落とし方も好きですね。出来れば「ずれる」と云うことに関して、もう少し掘り下げても良かったかなとも想いますが、この分量だし、この作品としてはその迄しない方が寧ろ良かったのかも知れません。

★時刻表/松本楽志
是は……感想が書き難いですね、正直。読んでて面白かったし楽しかったけど、それを感想と云う形で第三者に伝えるのは、僕には無理な気がします。二重の意味で「読まないと駄目!」と云いたい。後は、それこそ文章が肌に合うかどうかとか、そういう問題だと想います。因みに僕は、ぶっちゃけそんなに得意な方の文章ではなかったんですが、それでも充分面白いと感じました。何が?と問われると、本当困るんですけど。一つだけ断言出来るのは、自分には書けない部類の作品だな、と。

★『百億の秋に、千億の愛を』#2「赫い生殖」/丼原ザ★ボン
自作につき、感想も控えされて戴きます。まぁ是については又改めて、色々と書きたいことがありますので、機会があればその時に。但し、勿論既読の方限定の話になるとは想いますが。
一つだけ、僕がこの作品でやりたかったことを書いておくと――山本直樹の褌で浅野いにおをやろうとしたけど、すっかり失敗してしまった――と云った感じですかね。

★輪唱ラヴソング/曽良圭
麻耶ですね。麻耶と云うか『夏冬』ですね、是は。そうとしか想えなかった。もしも『夏冬』がライトな感じの恋愛ものだったら……を実践した一篇。そのテーマと云うか材の取り方も非常に好きなのですが、是又文章が肌に合いました。何時迄もずっと読んでいたい感じ。テーマ的にも内容的にも、出来れば僕もこういう作品が書きたかった筈なのに、どうしてあんなことになってしまったんだろうか……。今でも不思議です。
最後の<蛇足・予告・破局>については、後味の悪い作品が好きな身としては、あって然るべきだったかな、と。あの部分があったからこそ、読んだ後に是程心に残るものがあったんだろうと。ファンになりました。新作、待ってます。

★キセキ/近田鳶迩
是もいいですね。語り口と云うか主人公の一人称が、読んでいてスッと感情移入が出来るんです。それに、彼とドラえもんとの距離感と云うか拘わり方が何とも微妙に絶妙で、それが読んでいて妙にハラハラさせる。メインとなる「キセキ」と云う名の機械に関する部分も、何と云うかSFとファンタジーと普通小説の間を浮遊している感じで、その感覚が気に入りました。終わり方もとても綺麗で、そのままフッと微笑んでしまいそうになる。と云うか、少なくとも僕は微笑してしまった訳ですが(笑)。

★落し物を届けに行こう/鈴木知友
是は巧いですね、巧い。何方かの感想で「是はもう完全にプロの仕事」と仰られていたのを見掛けましたが、僕もその意見には賛成です。是はもう、普通に文芸誌とかに載っててもいいですよ。或いは、プロの作家の短篇集の一作とか。完成度と云う面で云えば、本作が一番高いと想います。それに、最後の作品が是だと、この本に載っていた凡ての作品がとても面白かったような気がして、そう云った意味でもこの並び順と云うのは、ある意味天を味方につけているような気さえしました。勿論、僕の以外は全部面白かったんですが(笑)。
出来れば、空蝉速人の出て来る新作を、是非書いて戴きたい処です。いや、或いはソウタでもいいですが。

★総評
とは書いたものの、総評っぽいことは何も書けないので、唯単に読み終わった後に想った感嘆の声を。
あぁ、面白かった。お腹一杯です。レベルが高いですね、本当に。皆さんそれぞれとても個性的で、ストーリーやネタが被ってる印象も全然なかったです。あ、「先生」とか友人の「K」とかって云う意味での被りはありましたけど。
後は是非、次の機会にも参加させて戴きたいなと、切に願うばかりで御座居ます。