chronic life

I can (not) have relations.

太宰・変奏曲

僕は弱い人間です。それは善く判っています。自覚しています。自認しています。恥じても、情けなく想ってもいます。そして、此処で云う「弱い」と云うのは、本質的な弱さを隠す表層的な強さが欠如していると云うだけでも、その本質の弱さそのものだけでもなくて、それ等凡てをひっくるめて、あらゆる点において弱いと云う意味なのです。心とでも精神とでも魂とでも自意識とでも、何とでも呼んで戴いて結構です。そう云った人間的根元をなす、内面的中枢において、僕は絶対的に弱いのです。
さて、そんな僕の眼の前に今、白い悪魔が降臨しています。是が、人に因っては天使に見えるのかも知れませんが、僕に云わせればそんなものは存在せず、それらは凡て、一切合切悪魔でしか無いのです。ええ、それは僕の勘違い、想い違い、錯誤、否認――兎に角僕の問題なのでしょうが、そんなことは悪魔には関係ありません。悪魔は悪魔です。白い、悪魔なのです。しかも、同時に幾つかも――。僕には悪魔の数え方が判りません。「人」なのか「匹」なのか、はたまた私には想いも寄らない特異な数え方があるのか、僕にはさっぱり判りません。だから、幾つか――としか云えないのです。
そんな悪魔達が、僕の耳元で多くの苦言を呈して行きます。正に「悪魔の囁き」と云う奴です。しかし、そこはそれ。白い悪魔ですから、一聴余所で聞いている分には、それは正論で正しいことのようにも聴こえるでしょう。つまり、白地な悪事や悪巧み、或いは苦々しい言葉と云う訳では無く、そのものだけを取り出せば、極めて理に適った、倫理的には筋の通った意見なのです。それ故、余計に僕の心は苦しくなっていくのです。嗚呼、その悪魔の言葉は、僕の弱さを糾弾しているのです。強くなれと急き立てているのです。今のままでは駄目だと是正を求めているのです。さもなくば、最早お前に居場所はないぞ!と、僕に脅しを掛けているのです。嗚呼、是程迄に恐ろしいことが、この僕に他にあるだろうか? いや、無い。僕にとって是程の脅威が、是程の悪夢が、是程の哀しみが、嘗てあっただろうか? 僕は全身全霊を掛けて、白い悪魔達に脅かされている。しかしそれは他方、余所から見れば脅威でも何でも無く、唯純粋に僕の至らない所為なのだ。僕の弱さの所為なのだ。寧ろ、僕の為に掛けられた言葉なのだ。そう、そうなってしまうのだ! 僕は、僕の為に、僕が苦しむ言葉を掛けられている。しかも、その原因は凡て僕の所為なのだ。僕の僕に因る僕の為の悪魔。何なのだ、この捩れは? この攀じれは? この歪みは? この眼の前の悪魔達は、果たして僕が召喚したとでも云うのだろうか? 悪魔? いや、是は悪魔では無い。人間……ニンゲンだ! 是が人間? 是が人間なのか? 是が僕の知人なのか? 是が僕を取り巻く人々なのか? 是が僕のいる世界なのか? 僕は、この悪魔達との生活を守る為に、悪魔達の言葉を聴いているのか? 僕の為の悪魔なのか? 悪魔の為の僕なのか? 悪魔は、人間なのか? 人間の為の悪魔なのか? 悪魔の為の人間なのか? もう、僕にはその答が判らない。判らないよ……。
正しい悪魔と、間違いだらけの天使。僕は一体どちらと添い遂げたいのだろうか?