chronic life

I can (not) have relations.

指示語

気付くと僕は、深い霧の中にいた。何時か誰かが「不連続線」を見出した、あの場処に似ているような気がした。僕が追い求めてやまない、あの憧れの場処。もしかしたら今僕は、正にその場処を訪れているのかも知れない。
霧の中を彷徨い歩いていると、不意に何処かから声が聞こえて来た。遠い昔に聞いたことがある、子守唄のような声だった。その旋律は、僕の心に強い衝撃を与えた。それは、あの時彼女が口ずさんでいた、あのメロディだったのだ。
僕はその場に崩れ落ち、そのまま一歩も動けなくなってしまった。両手で必死に、左右の耳を塞いだ。咄嗟に、瞳も閉じていた。それなのに声は、少しずつ大きくなっているようだった。或いは、僕の勘違いかも知れないけれど。
光が現れたのは、その時だった。この世界そのものに漂っている濃霧を切り裂くような強い光が、僕の瞼を突き刺したのだ。と同時に、あの声も消えていた。僕はその場に立ち上がり、ゆっくりと眼を開けた。眼の前に拡がるのは、何時もと同じ、あの風景だった。