chronic life

I can (not) have relations.

図書館にて

夕方、図書館に行った時の出来事だ。
期限が迫っていたので、読み終わった『犬』を携えて、自転車に乗って図書館に向かった。3月になったとは云え、未だ未だ冬の風は身を凍えさせ、僕は襟元から入る冷気ばかりが気になっていた。少し、前方不注意気味だったようである。しかし、それは今後の展開には全く関係ない。ただの、本当にただの雑感だ。
図書館の中に入ると、僕は直ぐに空いていたカウンターの前に立って、借りていた『犬』を差し出した。それに続けて、予約していた

文学の徴候

文学の徴候

朝のガスパール (新潮文庫)

朝のガスパール (新潮文庫)

この二冊を借りる。担当の人が端末で手続きをしている間、僕はふと隣のカウンターに眼をやった。隣には、緑が立っていた。「緑」と云うのは人の名前ではなく、色の名称だ。英語で云うとgreen。緑は何やら、隣のカウンターの担当の人と口論しているようだった。それまで気付かなかったのが不思議な位、大きな声で云い争っている。どうやら、緑の探している本がどうにも見付からないらしい。しかし、今聞こえて来る話の内容からでは、緑が一体どんな本を探しているのかよく伝わって来ない。或いは、始めからこんな調子だったのかも知れない。タイトルも作者も出版社も刊行時期も判らず、その上どうやら詳しい内容も判然としないようなのだ。これでは、探そうにも探せないだろう。それでも緑は頑なに食い下がり、何とかその本を探し出させようとしている。繰り返し、一つのキーワードを連呼しながら。「終わりのない物語」と。
手続きが終わり、僕は二冊の本を手に図書館を出た。果たして緑は、その本を借りることが出来たのだろうか。出来たとしたら、次は是非僕にも貸して欲しい。たとえそれが、どんな物語であろうと。